始めに

成年後見制度について、条文はもとより色々な書物を読んで(といってもそんなに読んではいないかもしれませんが)いくうちに私の中には少しためらいが出てきたのが被後見人の方の人権という問題でした。制度が変わったにせよ本人がこの制度を受け入れられるかどうか?平等な社会と憲法にはあるけれど現実ではこの国でも人種差別、社会的差別は公然と現存します。この制度についても新たに差別が生まれてくるのではないかという危惧が私にはありました。

しかし、最近の新聞の記事を見ているとこの制度を悪用して高齢者の財産を狙って実際に事件になっていることを知り、高齢者や障害者の方やその親族の方に正しい認識を持っていただきたいと思いここに記事をアップしました。申請書などについては極端な言い方をすれば別に当方にご依頼されることはないですが(それはそれで私のほうは困りますが)唯、人の弱みに付け込み自分達の財産を盗まれることは誰もが納得はしないでしょう。この記事を読んで少しでも知識を身につけていただければと思います。


制度の主旨

認知症の方や障害者(知的、精神的)の方のように判断能力が不十分な人たちが普通の生活が営めるように保護する目的で成年後見制度が出来ました。以前にも禁治産、準禁治産(判断能力の有無を戸籍に記載する)という制度がありましたが運用するのが難しいため、平成11年の民法改正時に本人の自己決定権の尊重や身上保護を充実させたものです。

1 成年後見の種類
成年後見の種類は以下の通りです

① 「後見」→ 旧制度の禁治産に相当します。本人が日常生活が出来ないなど判断能力が全くない人が対象になります。

② 「保佐」→ 旧制度の準禁治産になります。本人の判断能力が全くない人が対象となります。一定の取引が制限され、たとえば金銭貸借、自動車の購入、リフォームなどの行為は制限の対象です。保佐人の同意なしにはこれらの行為は保佐人が取り消すことが出来ます。

③ 「補助」→ 通常の生活は可能ですが、本人の判断が不十分な人が対象になります。補助人が選任されて同意権や代理権の範囲を定める申し立てをしますが、本人の同意が必要になります。高齢者の保護という観点からは適していると思われます。これは新制度になってから出来たものです。ただし「本人の同意」というのがネックになり実際は殆ど申立がないということです。

④ 「任意後見」→ これも新制度になってから出来たものですが、本人が契約締結に必要な判断能力を有している間に任意後見契約を結び、障害などにより判断能力が不十分になった場合に任意後見人を選任して本人を保護することが出来ます。超高齢化社会になるこの国では任意後見制度を使いことが多くなると思われます。

①〜④までは本人の症状をよく見てから決めることが大切です。医師の判断を仰ぐことが先ず第1段階です。


2 後見人などになってすべきこと

後見人などになってすべきことは、本人の状態に注意することは別に財産の管理などをすることが必要です。しかし、それ程深刻に考えることはありません。最低限やっておかなければいけないことを記載しておきます。

①後見する本人の財産目録を作る・・・財産(例:不動産、預貯金、現金など)と負債(住宅ローン、借金など)を分けて作成します。

②年間の収支予定を立てる・・・後見する本人の収入と支出を書き出します。収入は年金、賃料、配当金、雑収入など支出は生活費、医療費(保険料なども含む)、返済金などです。こういった作業は少し面倒ですが少しでも不安があれば信用の置ける人のアドバイスを受けることを薦めます。

③後見する本人の日常の家計を管理する・・・つまり通帳の管理をすることになります。しかし、毎日の家計簿をつけるということではなく財産が無計画に使われないように管理することに注意を注ぐことでいいと思います。そこで後見する本人の通帳は1冊にしておくと金の流れが把握しやすいので効率的です。

④家庭裁判所への報告・・・後見人などは1年〜3年の間に1回、その報告をしなければいけません。このときにその通帳、本人の様子をメモしたものなどを持参することになります。または、10万円以上するものがあれば領収書を保管しておきましょう。



3 手続きについて

①審判申出は本人の住所地の家庭裁判所で本人、配偶者、4親等内の親族、成年後見人等、任意後見人、監督人、検察官が行います。また市町村長がすることも出来ます。

②必要な書類は次の通りです
・申立書
・申立事情説明書
・後見される人の財産目録及び資料(登記簿謄本、預貯金の写し)
・本人の収支状況報告書及び資料(領収書の写し)
・後見人等候補事情説明書

 後見される人の書類としては次の通りです
・戸籍謄本
・住民票
・医師の診断書
・登記されていないことの証明書

後見人等の候補者についての書類は次の通りです
・戸籍謄本
・住民票
・身分証明書
登記されていない証明書


4 申し立ての費用

収入印紙、登記印紙、郵便切手、鑑定費用を含めて最低でも10万円〜12万円かかります。ほかに登記されていない証明書、戸籍謄本、住民票などの手数料がかかります。また任意後見の場合は鑑定費用が要りませんがその代わり公正証書作成が必要となりますので約4万円程度が必要です。ですから少なく見積もっても20万円はかかると思っていただければよろしいのではないでしょうか。


******閑話休題********************

後見人等は本人が手術するようなことになった場合に「手術同意書」にサインできるでしょうか?結論から言うとサインできません。医療行為についての同意は基本的には親族のサインに限られます。緊急の場合はどうなるのか?これは医師の裁量になるのではないかと思いますがどうなるのかわかりません。医師も下手に手術をすると傷害罪、殺人罪に問われることになるからです。この様に法律は横の連携関係が不十分ですので整備しておかなくてはいけないのですがお役所は腰が重いようです。

******************************


5 任意後見について

任意後見とは認知症や精神障害等になる前に任意後見契約を結び公正証書を作成して公証役場から後見登記をします。これによって財産の管理を任意後見人が出来ることになります。前述した「後見」「保佐」「補助」は裁判所の審判により行いますが、任意後見契約の場合は家庭裁判所から任意後見監督人を選任されることにより効果が生じます。

任意後見契約は3つの契約の形があります。①「生前事務の契約」②「任後見契約」③「死後事務契約」です。①〜③間で連続しての契約が理想的ですが、①+②というパターンも考えられます。高齢化の進行、また核家族化している今日ではこの任意後見契約が有効だと考えられます。

6 任意後見契約とその他の成年後見との手続きの違い

“任意後見”

①任意後見契約(公正証書)
      ↓
②本人の判断能力の低下
      ↓
③任意後見監督人の選任申立
      ↓
④選任(家庭裁判所)
      ↓
⑤後見開始


“その他の成年後見”

審判申立
     ↓
ヒアリング(鑑定、親族への意向照会、本人調査)
    ↓
審理
    ↓
審判(3ヶ月から6ヶ月間)
    ↓
審判確定(2週間)


申立の資格としては本人、配偶者、4親等内の親族、任意後見人受任者、検察官または身寄りがない人については市町村長が申立することが出来ます。任意後見とその他の後見制度の違いは本人の判断能力の低下の時期によります。前者は契約時には判断能力がありますが、後者には審判申立時には判断能力がすでに不十分であるということが明確だということです。また、任意後見については本人の判断能力が低下したかという判断が難しいことがあります。周りの人が注意しながら判断することが大切です。


7 後見人を誰にするか?

非常に難しい問題ですが、個人であれば家族、友人、我々のような専門職もなることが出来ます。また、法人も後見人としてなることが出来ますが、本人に誰にしたいのかの意思があればそれを優先させるべきではないでしょうか?成年後見についての相談窓口として公的機関があります。「成年後見センター・リーガルサポート」や家庭裁判所の家事相談を利用することも一つの手段です。


終わりに

成年後見制度について色々と勉強していくうちに制度活用について私の中で疑問がでてきました。障害者や認知症になった方の権利保護と聞こえはいいものの、これは健常者側からみている制度でむしろ差別意識を助長しているのではないのかという点です。誰しも生まれるときや生まれた後に障害や病気になるとは思ってもいないでしょう。自分でその現実を受け入れることはとても辛いことです。しかし、それを悪用して判断能力が不十分になった人たちの財産を侵害する人間もいることは事実です。この制度がないと更なる認知症、障害者の権利や義務を侵害されることにもなりかねません。これからの社会構成を見たときに成年後見制度を上手く活用して少しでも当事者の方たちは安心できる生活が送れるようにと思っています。当事務所で皆様にお手伝いできることは、任意後見人の受託、任意後見契約の公正証書の作成などが可能です。お気軽にお電話ください。


お知らせ

成年後見についての概要をまとめた小冊子を期間限定(任意)で無料で送付します。申し込み方法はメール相談のフォームから必要記載事項を記入して、相談内容の欄に「成年後見小冊子希望」と書いてください。


なおこの記事については万全を期していますが、必ず正しいとは限りません。この記事で損害を被った責任の一切には応じませんのでよろしくお願いします。


 

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