遺言作成

遺言(エンディングノート)の作成
1.遺言(エンディングノート)作成の目的
人間というものは必ず「死」というものに直面します。その時、多くの人は家族という人々に看取られて死んでいきます。家族というものが戦後の法改正により変わってきたと言ってもやはり妻、子といった最低の単位での家族は残ります。また、高齢化などにより家族観などが大きく変わりつつあるのも現実です。法律で一律の相続制度が決められていますが、それに対して抵抗感を持っている人も少なくありません。
そこで遺言を作成しておくと自分の相続をデザインしていくことが大事になるでしょう。遺言といっても堅苦しいイメージがつきまといますが簡単に作ることができます。(唯、一定の約束事はあります)私はその遺言を「エンディングノート」と呼びなるべくその堅苦しいイメージを取り除きたいと考えました。なるべく、元気なうちに遺言を作ることが今後の自分の、また家族の今後の人生設計に役に立つことを望んで遺言(エンディングノート)の作成をお手伝い出来ればと思います。

これから、私が前の職場で実際に見てきた遺言に関するケースをご紹介します。

【ケース1 自分でけじめをつける】
その人はもうすでにご高齢でありましたが戦争で親兄弟を亡くし、ご自分も結婚をしていらっしゃいませんでした。その人は先祖代々からの田畑があったのですが、このまま相続人がいない場合は自分の財産は国庫に入る可能性がありました。やはり戦争で大変辛い経験をしているので国に対しての不信感は相当なものでそれらの農地は絶対に国にとられたくないとおっしゃいました。私はその人の相続関係を調査し遠い親類の方が1人いらっしゃることを知らせると自ら遺言を作成し、自分の財産をその親類の方に相続したいとおしゃいました。「国は信用おけない」という一心からでしたが、そのけじめの良さは私にはできないと思いました。
後で聞いた話ですがその方は陸軍士官学校の出身だそうで、どおりで高齢なのに背筋はいつも“ぴしっ”としていましたし、字も大変達筆で猫背で悪筆の私なんか到底、足元にも及ばないという感じです。さすがに元軍人だけあってけじめのつけ方はきちんとされたので私には鮮烈に記憶が残っています。それから相続人が1人もいないということもありますので国庫に入ることが納得できないという方には病院、福祉施設に遺贈することも出来ます。


【ケース2 財産少なくても争いは必ずおこる】
私がまだ新米の頃でしたが父親名義の農地でたったの200u(農地200uと言えば“たったの”となります。私の住んでいる所は田舎ですし、このケースでの場所はもっと田舎です)を兄弟で争って結局それ以後、絶縁状態になっていると聞きました。
このケースは父親が亡くなる前に兄弟2人に対して遺言で相続分をちゃんと分けていたのですがその遺言にその200uあまりの土地が明記されていなかったのです。けっこう土地を持っていたので遺言を作成したとき遺漏していたのでしょう。遺言状を私も見せて頂いたのですが確かに該当の地番がありません。この土地をめぐって2人は全く譲りません。役場や県も巻き込んでなんとも醜い喧嘩のはじまりです。こうなるともう2人とも土地のことなど関係なく個々の人格まで否定する始末!結局2月ぐらいでおさまりました。
問題の土地を共有で所有する移転の登記をしました。私も2人の喧嘩の場に2〜3回いましたが「兄弟でもこんなにも仲が悪くなるのか」と実感しました。今、考えてみるといくら血のつながった兄弟でも年を重ねていくうちに生活レベルにも差が出てくるとこういうことは想定の範囲内ですよね。遺言があったから2月ですんだけれど、これがなかったら長い期間2人は罵り合いを続けていくことになったと思います。
【ケース3 ニートの子供が心配】
その家には、子供が3人いましたが2人は独立して家から出て行ったのですが、1人程30歳を過ぎてもまだ職にもつかず、家から出ず今で言うニートの方がいました。末っ子で甘やかしたと親は言っていましたが、私から見ても少し愛情のかけ過ぎではないかなと思いました。親としてはそのニートの子が不憫なのでしょうか身の回りの世話をすべてやっていると聞いていました。
私は仕事とは全く関係のないことなので親の方の土地に関する調査を普通にこなしていたのですが、ある日「中村さん、他の2人に独立して心配はないが、この子が心配で心配で夜も寝られない。私達が死んで残す財産を出来るだけこの子(ニートの子)にあげたいがどうすれば良いか?」と尋ねられました。私も困ってしまい「後日に調べてまた来ます」と言い事務所に帰って上司に相談しました。上司は「遺言か遺産分割協議でいいんじゃないの。後は自分で調べろ。」(お役所的な職場なので本来の仕事以外はやりたくないのです)と言うのでその家の状況からとりあえず不動産のみ調べて、また遺留分(後に記述)を考えて遺言より遺産分割協議の方が良いのではと思い家の方にアドバイスをしました。今、ニートやフリーターの増加で親の方がニートの子供に残してやりたいがどうしたら良いのか悩んでいることが、多いのではないのでしょうか?
また、この逆に働かない者に財産を残す必要がないと思う親もいると思います。この場合でも遺言を作っておくと自分の財産を法定の相続分とは違ったものにできて都合が良いと思います。遺言とは相続制度の1つに過ぎませんが法律が自分の家族の状況に合わないことも応々にしてあります。
遺言で相続を状況にあわせて再設計することが生きているうちにすることが大切ではないでしょうか




2.遺言の種類について 


         
まず遺言を作成するためには相続について基礎知識が必要です。

「相続」「被相続人」「法定相続分」「遺留分」の4つの意味をこれから簡単に記
載します。

「相続」   ・・・・・・・・・個人が亡くなった時、“死亡”を原因として亡くなった人の
「被相続人」      財産を配偶者などに承継されること、死亡した人を“被相続
       人”と呼び相続する人のことを“法定相続人”といいます。


法定相続人には順位が決められています。第1順位は被相続人の子及びその代襲相続人(ex:子の子)第2順位は被相続人の直系尊属(親、祖父母など)第3順位は被相続人の兄弟姉妹及びその代襲相続人となります。また、配偶者は常に法定相続人となります。当然、届出をした配偶者となります。内縁関係は法定相続人となりません。

「法定相続分」・・・相続が複数いる場合は相続分をそれぞれの割合で承継します。
          割合については以下のとおりです。

第1順位  (配偶者=2分の1)  (子=2分の1)


  
第2順位  (配偶者=3分の2)  (直系尊属=3分の1)



第3順位  (配偶者=4分の3)  (兄弟姉妹=4分の1)


法定相続分 第1順位の場合

例  A(被相続人)の配偶者Bの相続分は(2分の1)、子が2人いたとすると
それぞれに4分の1の相続分になる。子の相続分は2人で2分の1となる。



法定相続分 第2順位の場合

例  A(被相続人)の配偶者Bの相続分は(3分の2)、子がおらずAの父母が
   生存していれば残りの3分の1の相続分を2人で分けることになる。


法定相続分 第3順位の場合@

例  A(被相続人)の相続人が兄弟姉妹のみ、仮に姉と弟がいたとするとそれ
   ぞれ2分の1の相続分となる。

法定相続分 第3順位の場合A

例  A(被相続人)の相続人が配偶者、Aの兄(死亡)、Aの姉(生存)、兄の
子が2人いたとすれば配偶者には4分の3の相続分になりAの姉には8分
の1、兄の子にはそれぞれ16分の1が相続分となる。Aの兄弟姉妹また
はその子であわせて4分の1となる。兄の子については代襲相続となる。

   

以上が法定相続分の主なパターンです。

遺言を書かなかったらこれらの表の相続分になりますので確認した方が良いでしょう。尚、上記の例で子の相続分は均等ですが非嫡出子の場合は嫡出子の2分の1 となります。


「遺留分」・・・・・・例えば遺言書に配偶者にだけ財産を相続させるとあっても、子は本来の相続分の (財産の )は権利を取得しています。遺言によって侵害された権利はその効力を失わせることができます。当然の相続分の権利のことを“遺留分”といいます。遺言を書く場合、遺留分に気をつけながら書くことが良いと思います。遺留分の割合を表にしてみました。